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川崎公害病患者と家族の会事務局長/大場泉太郎さん

2012年2月20日

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福島と重なる構図

 高く澄んだ冬空のJR川崎駅近く。この青空を取り戻そうと大気汚染に苦しむ公害病患者に寄り添い、企業や国と相対してきた“闘士”は、世界最悪の原発事故に見舞われた人々の境遇に胸を痛めていた。

 「公害だと捉えています」。開口一番、福島原発事故をそう指摘した。川崎での大気汚染公害との共通点は少なくないという。

 利益最優先の企業、それを後押しする政府。加害企業としての東京電力の存在も重なる。そして「命を脅かされ、平穏な人生を奪われた」住民の苦しみも。

 「東電は、想定外という言葉を免罪符のように繰り返し、自らも天災の被害者だとの思いが透けて見える。国も安全性を十分指導してきたと言いたげです」

 だからこそ、責任の所在を明確にし「加害者の東電には将来にわたって最後の一人に至るまであらゆる被害を補償させ、国にも補わせる。それが第2、第3の福島を防ぐことにもつながります」。

 まずは加害者と被害者の関係をはっきりさせる、それが問題解決の出発点―。公害病患者と歩むこと26年余、その中で得た確信だ。

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 戦後の復興と高度成長を支えてきた工業都市・川崎。一部の人々に犠牲や負担を強いて、大多数の国民が恩恵を享受する。「この国は今も昔も変わっていない」。その構図は米軍基地もしかり、原発もしかりだ。

 大気汚染によるぜんそくは常に発作の恐怖がつきまとう。いったん起これば「水を張った洗面器に顔を漬け続けるような」呼吸困難の苦しみが続く。体力が衰えて解雇されたり、結核を疑われて風評被害で廃業したりと経済的負担も大きい。安住の地を求めて、転出する人も少なくなかった。

 夫婦関係が持てず離婚に追い込まれる。発作に苦しむ親の姿に子どもがショックを受け、温かな親子関係が築けない。多くの家族の絆が断ち切られた。福島との共通点はあまりに多い。

 いつしか子どもたちは空を青く描かなくなった。「私の夢はお嫁に行くまでにぜんそくを治すことです」。3歳で発症した小学3年生の女児は作文にそう記した。「本来はもっと明るい夢を持てる年ごろなのに」。当時を振り返る語尾が、わずかにかすれて聞こえた。

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 「真の文明は 山を荒らさず 川を荒らさず 村を破らず 人を殺さざるべし」。足尾鉱毒事件の解決に生涯をささげた政治家・田中正造の言葉は、100年を経てもなお色あせない。

 だが、公害という言葉を聞かなくなって久しい。「環境という、どこか聞き心地の良い言葉に変わり、公害は過去の話だと思っている人も多い。言葉が失われると次第に忘れ去られてしまう。声を上げ続けなければ」。川崎市独自のぜんそく認定患者が「市北部を中心に今も発生し続け、全国でも大気汚染被害が拡大する」中、新たな救済制度の創設に力を注ぐ。

 忘れてはならない―。その思いは福島にも向けられる。原発事故から間もなく1年。建屋が爆発し、白煙を上げる映像を見た誰もが感じたであろう死への恐怖が「喉元過ぎれば…」となっていないか。いつしか利便性や効率を優先する暮らしに戻ってはいないか。

 「脱原発は経済発展を阻害する」という世論形成の動きを感じる。裏返せば、産業活動を最優先に考える人々が現状を脅威に感じているともいえる。

 川崎で企業や国から和解を勝ち取り、青空を取り戻したのは市民の力が大きかった。そして今、人々はボランティアで福島に向かい、街に出て集会に参加し、自らの意思を表している。

 「ごく普通の人々の小さな行動が大きなうねりとなり、社会を動かすこともある」。声高でなくていい。特別なことも必要ない。「上ばかりを見て、前へ前へと進むだけではなく、まずは自分の足元を見つめ直し、身近なことから始める。私たちにできることは、まだまだあります」

◆川崎公害 1960年代から臨海部の工場の排煙、さらに幹線道路を通行する自動車の排ガスで大気汚染が激しさを増し、気管支ぜんそくなどの患者の発生が深刻化した。82年から88年にかけて、公害病患者計440人が企業13社と国、首都高速道路公団(現・首都高速道路株式会社)を提訴。96年に企業、99年に国、道路公団とそれぞれ和解が成立した。

◆おおば・せんたろう 川崎公害裁判原告団の初代団長に求められ、31歳で事務局長に就任。その後、川崎公害病友の会(現・川崎公害病患者と家族の会)の事務局長を兼務する。2009年から全国公害患者の会連合会の事務局長代行も兼ね、10年から事務局長。東京都大田区在住。57歳。


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