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広島・長崎・ビキニ…福島、やりきれない思い募る元マグロ船長/三浦

2011年8月14日

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当時の記憶をたどりながら、三崎港の岸壁に立つ今津敏治さん=三浦市三崎

当時の記憶をたどりながら、三崎港の岸壁に立つ今津敏治さん=三浦市三崎

 66回目の終戦の日を、複雑な心境で迎えようとしている。元遠洋マグロはえ縄漁船船長の今津敏治さん(82)=三浦市三崎町諸磯=は57年前、「ビキニ事件」を経験した。広島、長崎、ビキニ、そして福島。「日本は過去にどれだけ放射能の洗礼を受けてきたか。教訓はまたも生かされなかった」。現在の原発事故による放射能への不安の高まりが当時と重なり、やりきれない思いが募る。

 長崎で平和祈念式典が行われた今月9日。強い日差しが照りつける中、今津さんは遠い記憶をたどりながら三崎港を眺めていた。まなざしの先には、実習船と数隻の漁船が浮かぶ。「体を張って水揚げした魚を捨てるのは、漁師にとって、たまらんことですよ」

 1954年2月。今津さんら乗組員27人を乗せた「第11福生丸」は母港の三崎港を出港した。太平洋・ビキニ環礁周辺で行われた米国の水爆実験で、マグロ船「第五福竜丸」が被ばくした情報は、さらに遠洋のフィジー諸島南西側で操業中に届いた。判明から半月以上が経過していた記憶がある。

 無線からの情報は少なく、乗組員の危機意識は低かった。「米国は日本の漁船がいることを知っていたはずなのに、何も知らせなかった。どこかでまたやるかもしれない」。広島、長崎の原爆被害が頭をかすめたが、船長という立場から憤りと不安を押し殺した。

 当時、周辺海域は数百の漁船が操業する好漁場。漁を切り上げ、三崎港に近づくにつれて福生丸にも水産庁や水産団体から注意を促す連絡が相次いだ。雨や海水で体を洗わない。船体を入念に洗浄する。船に飛び込んできた魚は食べない。「そんなことまで、という指示が次々と来た」。放射能による被ばくをできるだけ避けるためだった。

 福生丸が帰港したのは4月末。放射能測定機で船や魚が汚染されていないか検査を受けた。今津さんら乗組員も一列に並ばされた。「大丈夫だ、どこからも出るはずがない」。水爆実験場から遠く離れた海域で操業し、危険海域を避けて遠回りして戻ってきた。

 だが、カジキマグロを中心に、国の基準を上回る数値が出た。いわゆる「原爆マグロ」だ。水揚げ120トンのうち、10~20トンが廃棄された。せっけんで洗ったはずの船体の一部からも反応が出た。「なぜ…」。あまりの理不尽さに、悔しさが込み上げてきた。

 56歳で船を下りた。今津さんやほかの乗組員に深刻な健康被害は出なかった。当時を知る仲間たちは数えるほどになり、記憶の風化は免れない。「どうして同じ過ちを繰り返してしまうのか。人間って賢くてばかなんだな、と思います」。今は憤りよりも、寂しさがにじむ。

 東京電力福島第1原発事故が起き、日本の被ばく体験はヒロシマ・ナガサキから、フクシマにも広がった。農産物の放射能汚染や風評被害に苦しむ人がいる。「原発は安全だ、必要だ、と国策で推進してきたが、これからどう向き合っていくのか。国民全体で議論するべきではないか」

 今津さんの願いは、一つだけだ。「もう、これ以上、日本から世界の共通語を増やしてはいけない」

 ◆ビキニ事件 米国が1954年3~5月にかけ、マーシャル諸島のビキニ環礁周辺で全6回の水爆実験を実施した。3月1日に行われた最初の水爆実験で、静岡県のマグロ船「第五福竜丸」の乗組員23人が放射性物質を大量に含んだ「死の灰」を浴び、1人が亡くなった。約千隻の日本漁船が被災したとされる。

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